自信を手に入れるための“学習性○○○○”
サークル: トランセル
サークルHP:
発売日: 2022年08月13日 0時
本文より引用
1964年のある日、実験室に閉じ込められた犬たちに電気ショックを流す、あの有名な実験が開始されました。
電気ショックは警告無く不規則に与えられて、犬が何もしなければ5秒間連続して流れ続け、目の前にあるパネルを鼻で押すことが出来れば即時に止められるようになっています。
それに対してもう一方の別のケージはすこし様子が違いました。電気ショックを止めるためのパネルが設置されて無かったのです。ケージを飛び越えることも出来ない犬たちは不規則なタイミングで流れる電流に為すすべなく、5秒という長い時間を耐えるしかありませんでした。
次の日、それぞれのケージで電気ショックを経験した犬たちは別のケージへ移されます。この場所で、あの有名な言葉が生まれました。
そのケージでも同じように電気ショックを受けるのだけれど、今度のケージは飛び越えることのできる低いもの。そこで電気ショックを受けた時、事前にパネルを押して電気ショックを止めた経験のある犬たちは例外なくケージから飛んで逃げ出しました。
しかし、前日に電気ショックから逃れる術を与えられずにただ耐える経験をした犬の7割は、うなだれたようにか弱い鳴き声を上げるだけ。まるで【無力感を学習してしまった】かのように、飛び越えられるケージを飛び越えることなく自信を失い、ただ電流の痛みに耐えようとしていたのです。
これはいわゆる“学習性無力感”に関する実験のお話です。心理学という学問に興味のない人であっても、似たようなエピソードは一度くらい耳にしたことのではないでしょうか?
犬好きとして“電気ショックを流す”というのはとても悲しい実験です。それだけじゃありません。電気ショックを流されることに対する抵抗を辞めてしまった彼らを、あなたは”子供の頃の自分”と重ね合わせてしまって嫌な思いをしたことがあるかもしれません。
だって、“学習性無力感”のお話はこれでおしまい。
こんな救いのない、悲しい物語が、果たして許されるのでしょうか・・・?
実は、この物語には続きがあります。この実験の根幹にあるのは、ある洞察でした。つまり、【人が自信を失い無気力感を感じてしまうの原因は「苦痛そのもの」ではなく、「苦痛は回避できないという信念」である】、という洞察です。そこで、心理学者のマーティンセリグマン氏は、このような疑問を持ちました。
「彼らはなぜ、電気ショックから逃れる道を探すことが出来たのだろう?」
そう、電流に対して無抵抗になってしまった7割“ではなく”無気力を学習してもなおケージから脱出した、3割の犬に注目したんです。そして研究の末、悪名高い学習性無力感を相殺できる“学習性楽観主義”という概念を提唱しました。学習性無力感は、研究によって変えることが出来ると分かっています。
一度は逆境に流され折れて無力感を“学習”してしまったとしても、後天的に「楽観主義を学習できる」という知見はそれだけで希望を与えてくれます。僕はそういうものが欲しかったから、本を読んで勉強しました。
そこでこのテキストでは逆境に抗うことで、今より安全で快適な居場所を手に入れた3割の犬たちのように考えるための方法について、出来る限りシンプルにまとめています。
学習性無力感には“個人化”“普及化”“永続化”という3つのパターンが有ることが分かっています。ただ、これだけじゃあ分かりづらい。そこから抽出した、無力感に対抗するための手順は3つ。
・害を減らすこと
・予防する中で、希望を見つける
・現実的な予測を建てる
・・・実際のところ、プロセス自体はとても簡単です。ただ、人によっては素材を見つけるのが難しいかもしれません。これは、動画サイトで見かける「作業に集中できる環境音」に似ています。そもそも、あなたの意思で「集中していたい」と思えるような作業内容でないと集中することは出来ません。そういう意味では、このテキストの実践にもそれなりに試行錯誤が必要でしょう。
とはいえこのテキストの一番のテーマは、“惰性から離れて、大切な価値を思い出すお手伝いをすること”。人生をかけてもいいと思えるくらい熱中できる対象を再発見したときには、それまでの人生観を大きく変えてしまうような価値を感じられるハズです。
僕の場合は、このサークルでやっていることがそれにあたります。つまり“理解できない理不尽なもの(たとえば学習性無力感)について調べて、理解できる形に捉えなおすこと”。個人的な楽しみの一巻としてやっているけれど、その副産物として出来上がったアイディアを、この場で共有できれば嬉しいです。
何度でも言いますが、プロセスは簡単。
だから、初めの第一歩を踏み出してみましょう。
●害を減らすこと
害というのは、俗にいう“認知の歪み”というやつです。“過度な一般化”とか、“白黒思考”とかいう名前で聞いたことがあるかもしれません。
認知行動療法と呼ばれる概念のなかにあるもので、正しくやればちゃんと効果が出ることが分かっているのだけれど、“認知の歪み”というのは沢山有るので、いかんせん取っつきにくい。
何しろ、その人がどのような経緯でそう考えるに至ったのか?という絡まった糸を地道に解していかないといけないからです。
それに関しては『いやな気分よさようなら』という名著を見たことのある人もいるかもしれないけど、いやな気分のときにあの辞書みたいに分厚い本を“全て読まなきゃならない”なんて考えてしまったら手のつけようもありません。というか、やってられません。
僕もそう思った質なので、ここではより実践的に、あるひとつの基準で考えます。
(続きは本編で)
(補足)自己否定を分けて考えてみる
自己否定をしているときを思い出してみると、いくつかのパターンがあることに気付くと思います。
例えば、「自分はいつもこうだ」とか、「自分は何をやっても駄目だ」、「自分はずっとこのままなんだ」とか。
上に挙げた3つの例が、学習性無力感を形づくっている3つの要素(個人化、普及化、永続化)を象徴しているセリフです。そして、それらに対処するための方法をまとめたものが、この作品です。
第一章では“個人化”に対して、自己否定の基となる3つの信念を特定してそれを無害化する方法をまとめています。
第二章では“普及化”に対して、強みを探す考え方を定着させることで「何をやっても」を否定する方法をまとめています。
そして第三章では“永続化”について、これまでの内容を踏まえたうえで現実的な目標を立てる方法をまとめています。
これらの内容を愚直に試すのも、アレンジして使うもの、使わないのもあなた次第。唯一正しいアプローチというのはありません。むしろ、漠然とした目標を達成する為に複数のアプローチを知っていることの方が重要だと考えます。あなたはどうでしょうか?